母にはどうか内密に

親戚と話していると相談事をよく受けます。そして「このことは母には内緒にしてね」と決まって最後に口止めされます。何となく心が暗くなる言葉です。

母は大変な見栄っ張りで、下だと判断した相手には非常に失礼な態度を取ります。母は立派な子どもを育てたこと(あくまで彼女の自己評価です)、子どもの配偶者を自慢にしています。特に私の夫はエリートなのでお気に入りです。誰かに会えば子どもの自慢話をしているので、特に親戚との仲は悪いです。義弟の両親にも散々自慢したため、初回から嫌われています。自慢だけなら可愛いものですが、他人の学歴や職業を貶すので、それがますます周りを辟易させるのです。誰かの弱点を見つけると攻撃せずにはいられず、そのために親戚は母には極力何も話さないようにしています。

私の場合だと、こんなことがありました。

学生時代に付き合っている人がいました。付き合っていると言っても、オススメの本を紹介しあったり、夜中にこっそり電話する程度の、手も繋がない幼い恋でした。母の性格は熟知していたので付き合っていることは話さなかったのですが、子どものやることですからいつかはバレます。詰め寄る母に簡単に人となりを紹介したところ、たまたまその人は東大の合格者も多い中高一貫校に通っていたため、母は満足し、話はそこで終わるはずでした。

ある日自室でのんびりしていると、母が鬼の形相で入ってき、『あんたのボーイフレンドの家に行ったけど、障碍者がいた。頭はいいんだろうけど悪い血が混じってるのは良くない』と言い放ちました。いやいやいや、あんたのお子さん自身が障碍者なんで遺伝もクソもないんですが…と咄嗟に反論しかけましたが、「あ、終わったな」と悟ったので何も言いませんでした。

数日して彼から別れを告げられました。当たり前でしょう、知らないオバさんが急に家に押しかけてきて、家族を指差して『汚らわしい血、障碍者』とわめいたのですから。親御さんだってそんなキチガイの家と関わらせたくはないはずです。そうして短い恋は儚く散りました。

今でも母が『あそこの家はどうこう』『あなたが子どもを産めば、妹の子どもよりずっと優秀な子が生まれるのに(こんなことをツラっと言うので、妹と私の仲まで冷えます)』等と宣う度に耳を塞ぎたくなります。私も気が強いので、「そうだね、私の子どもは知的障碍だろうから、大学なんて行けないし就職も出来ないね。姪ちゃんとは将来の確かさが段違いだよね」「私の子どもが障碍者でも、私の時みたいに”なかったこと”にはしないでね、私が真人間になってから他人に紹介し始めたけど、『ひとりっ子』って設定にしてたから、急にでかい子どもが増えて皆絶句してたじゃん。恥ずかしかったなー、あれ。もう恥かきたくないから、ちゃんと知り合い全員に障碍者の孫が出来ましたって言ってね。言わなくても私が言いふらしてあげるから」と言ったら、今度は母が耳を塞いでました。いやー、大人になるって愉快ですね。