結婚したくなかった私が結婚した理由

私は元々結婚するつもりはありませんでした。

結婚=子育てという等式が頭にあったので結婚を忌まわしいものに感じていましたし、家庭環境が悪かったので、良いイメージがありませんでした。気難しい性格で好き嫌いが激しいので、他人と暮らすのも無理なように思えました。

生涯独身を通すつもりだったので、就職は手堅く決め、趣味を持ち、と準備は万端でした。独身に対する偏見や風当たりの強さには嫌なものを感じましたが、耐えるしかないと考えていました。

ある日親戚の家を訪ねた際に、『ハルちゃんは結婚しないの?』と訊かれました。「しない」と短く答えた私に、叔母は少し困った顔をしながら話し始めました。

『結婚しておくのも良いと思うのよ。年取るとね、どんどん性格が悪くなっていくから友達が減っちゃうの。でも家族だけは話をしてくれるわ。話相手がいるって良いものよ』

叔母は離婚後、40代で再婚していました。相手は薄毛でだらしなく太ったフリーターでした。いつもふうふう苦しそうに息をして汗をかいていて、何より良い年をしてろくに働いていないことが理解不能で、私は実のところ叔父が苦手でした。失礼な話ですが、どうして結婚したのだろうと疑問に思っていました。

でも彼女の話を聞いて、四十路のフリーターと結婚しなければならないほど中年の孤独は深いのか…と感じ入りました。『話相手がいるって良いものよ』という叔母の言葉が俄然重みを帯びて見えました。

私は底意地が悪く、最も人間関係が充実しているはずの10代にして友人が殆どいませんでした。中年になれば今よりもっと性格が悪くなって友達もいなくなる一方で、誰かと繋がりたい欲求は高まる…。でもその頃には魅力が失われており、その時相手をしてくれる人は…。

そこまで想像してゾッとしました。

それまでどれだけ結婚の良さを語る人の話や小説を見聞きしても結婚したいとは思わなかったのに、すぐにでも結婚しなければならないと考えが180度変わったのです。

論理的に考えてみると、結婚のデメリットの大部分は適切な相手を選ぶことで解消できると分かったこともあり、私は婚活に励み、結婚しました。

夫との生活は快適です。結婚して「おお!」と思ったのが、別に話さなくても間が持つところです。いちゃいちゃしてればあっという間に時間が経ちます。会話も楽です。突然話し始めたり中途半端なところで切ったり、傍目からは明らかに会話が成立してないような状態でも許されます。家族ってすごく楽です。あまりに楽すぎて、夫以外の人と没交渉になってしまったのは問題ですけど。

叔母はまさか自分が反面教師にされたとは気づいていないと思いますが、私は彼女にすごく感謝しています。淋しくない人生をくれて、ありがとう。