【読書感想文】日の名残り

イギリスを舞台にした小説をこのところ続けて読んでいます。

今日は、カズオ・イシグロの「日の名残り」を読みました。

この小説は、第二次世界大戦前後をイギリス人執事が回想する形式を取っています。読み進めていくうちに、彼の過去を美化する語り口とは裏腹に真実があぶり出されていくというミステリ仕立ての小説です。イギリスが覇権を失いつつある黄昏の時代を切なく美しく描いています。

そもそもイギリスの小説を読む動機となったのが、彼らと多少なりとも共通点が見いだせないか、楽しくおしゃべりができないかというものだったので、執事のスティーブンスの性格に注目しながら読んでいました。

彼はジョークが言えないほど真面目で完璧主義者です。そして盲目的で物事を深く考えたがらない性質があり、同時に、心の底ではその欺瞞に気づいています。これって、日本人そのものじゃないかと吃驚しました。案外、私たちは似ているのかもしれません。あと、もう一つの共通点として、人生を楽しむのが下手なんじゃないかなと。

ほんの少しですが、イギリス人のクラスメートと親しく話せそうな気がしました。

 

ネタバレにならない程度に、印象に残ったシーンを。

私の心によみがえってくるのは、...丘の上で見たあのすばらしい光景、うねりながらどこまでもつづくイギリスの田園風景のことです。もちろん、見た目にもっと華やかな景観を誇る国々があることは、私も認めるにやぶさかではありません。...イギリスの国土は、自分の美しさと偉大さをよく知っていて、大声で叫ぶ必要を認めません。これに比べ、アフリカやアメリカで見られる景観というものは、疑いもなく心を躍らせはいたしますが、その騒がしいほど声高な主張のため、見る者には、いささか劣るという感じを抱かせるのだと存じます。 

 イギリスに来る前、私はこの国に何の期待も持っていませんでした。起伏の少ない土地、曇りがちな気候、国土の大半が田舎・・・そんなイメージでした。教会や城塞などの西洋建築はこれまで飽きるほど見てきたし、自然といえば、北南米やアフリカなどのダイナミックな景観を訪ね歩いてきました。だから、イギリスでこれまで見てきた風景を超えるような眺めに出会えるとは思ってなかったのです。

でも、イギリスの田園風景や古い町並みは、実際に見てみるとイギリス以外では見ることの出来ないものでした。これはこれでとても良い、という感想を抱いたのを覚えています。とても空が広く、すっぽりと空に抱かれた小さな村々や湖、牧草地は、おだやかで色調が抑えめで、引用したとおり、「自分の美しさと偉大さをよく知っている」ように映りました。

他の国のように、名所にアトラクションを設けたり、スポットライトで照らしたり、ビューポイントごとにお土産屋さんの露店があったり・・・と興ざめな演出がなかったのも良かったです。・・・本当にどこも静かでとても良い眺めでした。