海外に住んでもその国が分かるわけではない

両親、夫、そして自身の赴任でいくつかの国に住んだことがあります。

どの国も基本的にいい思い出しかありません。なぜなら、治安の良い地域に住み、良いサービスを受け、ごく一部の人としか関わらなかったからです。その国の一番良い面だけを見る、いわば長期旅行者のような立場では、あまり実情を知ることはできません。

治安が悪い地域もあるので仕方がないのですが、それらの地域を避けて生活するとその部分の知識は手に入りません。治安の悪い通りを早足で横切る合間に見た市場やそこにいる人々の距離のある視線、一言も言葉を交わさなかった人々のことを思い出します。

現地の人と仲良くできればいいのですが、どうしても留学生同士ですとか、社内の人同士で固まってしまいがちです。家に帰れば、家族と日本語を喋ってしまいます。

それに、仮に現地の人と知り合いになったとしても、非常に嫌な言い方ですが、彼らはエリートであることが多く、現地の人というよりもどちらかと言うと海外経験豊富な国際人です。自国の価値観とは別に、国際的な価値観を持っており、ガイジンの私には国際的な態度で接してきます。話しやすいといえば話しやすいですが、彼らと話していても正直その国の姿が分かるとは言えないです。

それに、ガイジンである私が赴任先で行使できる権利には限りがあります。選挙権もないし、病気になったら日本人医師がやっている病院へ行きます。なので、自然とその国の政治や法制度には疎くなります。

戸惑うのは、住んだことのある国について聞かれる瞬間です。ほんのさわりしか理解できていない話をするのは気恥ずかしく、大抵歯切れ悪くもごもご呟くだけで終わってしまいます。良かった観光地の話ならいくらでもできるのですが。

 けれども、何年かを日本の外で過ごしていると、自国のことも理解できているのか自信がなくなってきます。間違いなく世界中のどの国よりもよく知っていますが、それが本当の日本とどれくらい重なっているのか…。結局は、個々人の中に無数の国の像があるわけで、感じた範囲のことを語るのに、それほど恥じる必要はないのかもしれないです。

 

余談です。

日本に住んだことのあるイギリス人記者が、日英の犬の違いについて語っていました。曰く、日本で犬関係で嫌な思いをしたことはないが、イギリスでは犬に飛びかかられたりして飼い主のマナーに憤慨することがよくある、と。

私の感想は全く逆です。日本の犬は知らない人にもすぐに寄っていき、触らせてくれます。幼い頃に飛びかかられたりして怖い思いをしたことはありますが、総じて日本の犬はフレンドリーで好きです。でも、犬嫌いの人は嫌かもしれません。一方、イギリスでは犬を連れている人は多いですが、近寄ると逃げてしまい、触らせてもらったことはありません。口枷をつけている犬も多く、飼い主に忠実でマナーが良いような印象を受けます。

私の中では八方美人な日本の犬と、家族にのみ心を許す英国の犬というイメージが出来上がっていたので、イギリス人が違う感想を持っていることに驚いています。もしかしたら、どちらの国もガイジンには警戒して犬を近づけないだけかもしれませんが。